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(おんな)
芥川(間所) 紗織 (あくたがわ〔まどころ〕 さおり)

板橋区立美術館 収蔵作品
染色・綿布、131.0cm×98.4cm、1954年
 美しい人や花、あるいはのどかな風景を描いたものは、人の心を和ませ、ゆとりをもたらします。しかし、そういった一般的な「美しさ」とは逆の面をも芸術は持っているのです。芸術を作るのが人間である限り、それを作る者の感情は作品に大きな影響を与えます。作品に表れた感情の渦はまったくの他人である鑑賞者さえみるみると巻き込んでしまうこともあるのです。
 芥川(間所)紗織(1924〜1966)は、もともと音楽の道に進み、声楽を学び、そして作曲家のもとへと嫁ぎました。音楽家の家庭を持ったのですが、しかし彼女自身は、それまでのピアノを弾き美しい歌声で自らを表現する道を絶たねばなりませんでした。作曲の妨げにならないよう極力音をたてることを控えるという生活は、表現者であった彼女にとって大きな圧力となりました。音楽から美術への転向は自然の成り行きであったのかもしれません。ただひたすら制作に打ち込む彼女が作り上げた作品のひとつが、この「女」なのです。
 髪をさかだて、目を光らせ、腕を振りあげる姿は、おぞましい女の業を見せつけるかのようです。そして天に向け、大きく開けた口は何を叫んでいるのでしょう。抑圧され、また自らをも追い込んだ作者の激情が圧縮に耐えきれず、画面にほとばしっているようです。それは単なる「怒り」や「憎しみ」といった感情の一断面ではなく、哀しみや憂いをも含んだ複雑な諸相を見せています。鑑賞者の様々な感情の琴線のどれかにその相が触れると、作者の声にすることさえできない叫びが、大きなエネルギーとなって鑑賞者に迫ってくるのです。
 芸術を生み出すのが人間ならば、それを見るのもまた人間なのです。お互いが共鳴し合うことで作品はさらに響き出し、力を増すのです。

AKUTAGAWA (MADOKORO) Saori

板橋区立美術館 ねっとび




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