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Toleration
伊藤 久三郎(いとう きゅうざぶろう)

板橋区立美術館 収蔵作品
油彩・キャンバス、112.2cm×145.2cm、1938年
 伊藤久三郎(1906〜1977)は京都に生まれ、京都市立絵画専門学校で日本画を学び、1928年の卒業とともに上京、洋画の道へと転向しました。1930年協会の研究所でフォーヴィスムという自由な色彩と奔放な筆致の絵画を描き始めます。まもなく二科展に入選し、次第に当時日本に普及してきたシュルレアリスムの影響を受けた作品を発表、戦後は抽象芸術へと展開しました。シュルレアリスムとは、架空の情景や物を、あるいはそれらの構成を作者のイマジネーションのおもむくままに表現した形式や考え方をいい、「超現実主義」と訳されます。
 この絵は、伊藤32歳のシュルレアリスムの作品です。不可思議な空想の表現に、もしかしたら存在するかもしれないという、未知の世界への興味をかきたてられます。決して美しく清らかな世界とはいえない情景です。しかしなお、この絵に魅了されるのはなぜでしょう。白い山、ひび割れた大地、倒れた荷車は、荒涼とした世界を思わせます。帯を手にした遠い人物は白い境界を引き、近い人物は、それを超えかねて佇んでいるようです。闇に吸い上げられたかのような灰色の塊は不気味に浮遊します。それぞれは、何の関連性もなく意味を持たない空間があるという印象であるにもかかわらず、音もなく静かに忍び寄り、じわじわと浸透してくるような迫力があります。
 この前年に、写実傾向の新美術家協会に入会した伊藤は、この年、前衛集団の九室会にも入会しています。ただ一人双方の会に入った彼は、どちらつかずの立場というよりは、はっきりと踏み越えるべき境界さえ見えずにいたのでしょうか。
 「寛容」と訳される題を持つこの画は、1938年の伊藤久三郎の姿なのかもしれません。

ITO Kyuzaburo

板橋区立美術館 ねっとび




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