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板橋区立美術館 収蔵作品
絹本淡彩、96.8cm×35.8cm、江戸時代
夏山黄昏月図(なつやまたそがれつきず)
田中 訥言(たなか とつげん)

 田中訥言(1767〜1823)は尾張に生まれ、江戸後期の京都で活躍しました。土佐光貞の門で学びましたが、そのころ沈滞した土佐派に物足りなさを感じた訥言は、自ら平安朝の古典的なやまと絵を学び、一派を興し、「復古やまと絵派」の祖となりました。晩年、眼疾が悪化して失明、自ら命を絶ったと伝えられています。
 本図では、画面右上に桂園派の香川景樹の義父・京都二条派の歌人香川黄中(景柄)の賛をたおやかに書し、左下方には月と滝のある崖をさらりと格調高く描いています。雪舟などで知られる室町時代の水墨画とは異なるやわらかな画面は、「外暈(そとぐま)」と呼ばれる手法で周りをぼかした月や滝の表現によるものです。
 江戸時代初期の狩野探幽の創り上げた独自のやまと絵様式からの流れを受け、さらに明治後半期の朦朧(もうろう)体につながる近代的な要素をもつこの画は、復古やまと絵を追い求めた訥言の日本的情趣へのさらなる心境の表れと言えるでしょう。
 古美術の風景画は、秋、春、冬の順に多く描かれ、最も少ないのが夏の景色だといわれます。紅葉、梅、桜、雪などのようなそれぞれの季節を代表する風物は夏景色に取り入れにくいのかも知れません。しかし、この作中では、夏の気だるい黄昏時の情景が詩情豊かに、見事に描き出されています。

TANAKA Totsugen

板橋区立美術館 ねっとび




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